No.28

企業におけるABC検診導入の問題点

                          永田 茂之(伊藤忠エネクス)

胃がんのほとんどにピロリ菌の関与があることがわかり、発がんのメカニズムも明らかになってきました。ピロリ菌感染の有無と胃粘膜萎縮を示すペプシノーゲンを測定することでABCD+E群に分けて、胃がん発生のリスクを予測して内視鏡検査の対象を絞り込む「ABC検診」が提唱され、一部の自治体や企業などで導入され始めています。胃X線検査よりも早期胃がんの発見率が高く、コストも下げられることも実証されてきています。

私が以前、産業医をしていた百貨店では、他の百貨店との合併を機にがん検診の内容が縮小され、また健保負担削減の必要性からも胃がん検診にABC検診導入をすすめてきました。ただし実際の導入には4-5年かかってしまいました。まず身近な医療スタッフの教育から始め、会社の福利厚生スタッフ、健保組合さらに福利厚生を統括する人事課などの人にABC 検診を理解して導入を納得させるのはなかなか大変でした。導入初期には余分な検査費用の増加や健診システムの変更、事後措置の煩雑さなどいろいろな問題が挙がってきましたが、数年後には健診費用削減も実証され、少しずつ定着していくものと思います。

一番の問題点は、一般社員の人たちにABC検診の本当の目的を理解してもらうことです。胃X線検査をなくすことへの抵抗感も強く、単にバリウムを飲む代わりに血液だけで胃がんが診断できると思う人も相当数いると思われます。私の後任の産業医が一般社員を対象に教育研修の場をつくってもらいましたが、参加者の数は限られていたようです。個人個人にABC検診の意味を理解してもらうには、まだまだ時間がかかると思われ、一方、健診事後措置の中でいかにハイリスクの人に胃カメラをすすめていくか、胃カメラを受けやすいシステムを作れるかが大きな課題となっています。

 日本人のピロリ菌感染率は年々減少しており、以前のように8割の人が感染していた時代から、最近では20代で2割以下、10代では1割以下に低下してきているなかで、従来の胃X線検査を続けることはがん発見効率が低下するとともに、内視鏡の進歩で早期がん発見と内視鏡切除の適応が拡がってきているのに対して、胃X線検査の早期胃がん発見には限界があることも重要な要素です。

 すぐにABC検診導入が困難でもピロリ菌検査だけ追加できれば除菌治療に繋げることで将来の胃がん予防ができ、予算に余裕があれば従来の胃X線検査を残したままABC検診を行って胃カメラへの切り替えを薦めるのも一つの方法かと考えられます。

(令和元年 8月掲載)