No.29
幸福経営 ~ 働き方改革の先へ ~
興梠 真紀(興梠労働衛生コンサルタントオフィス)
(幸福経営とは)
経営学の分野で「幸福経営」という考え方があるのをご存知でしょうか。幸福というと、これまできわめて個人的なこととされていたと思いますが、近年になって社員の幸福度が企業の業績や経営に大きな影響を与えている、という研究結果が発表されています。
産業革命以来、合理的なもの、効率的なものが好まれ、産業は大きく成長することになり、私たちもその恩恵を受けてきました。しかし、バブル崩壊後、地球上の資源も限りがあり、このまま数値的な成長ばかりを追いかけ続けるのは、何か違うのではないかと空気が生まれ、マインドが変化し始めてきています。マインドフルネスのような東洋的なものが見直されていたり、SDGsが受け入れられているのも、そういったマインドの変化を示すものではないかと思います。
「幸福経営」という考え方は一人一人の人に健康で幸せであってほしいという医療職としての願いと、企業にとっての業績向上という命題がマッチするのでは、と思い、幸福学研究の第一人者であり、慶應義塾大学大学院システムデザイン研究所教授前野隆司先生の公募のゼミに2019年6月に参加しましたので、産業保健とも関係の深い働き方改革とクロスする知見を共有したいと思います。
〈働き方改革の到達点としての幸福経営〉
2019年4月から施行されている「働き方改革関連法案」により、各企業で数値目標を持って残業を減らす方向に行っていると思われますが、「幸福経営」は働き方改革の到達点について示唆を与えてくれます。
働き方改革というと、まず長時間労働を改めることが第一なっているのではないかと思います。長時間労働を改めることは、健康を維持し、個人の学びを深めるという大きなステップになります。これを無視することは出来ないでしょう。
しかし、更に視野を広げて働き方改革によって最終的に到達したいところを考えてみると、一人一人が充実感、健康感を持ち、それらが働き方に反映されよりよいものを生み出してくというステージに移行することではないでしょうか。
幸福経営は従来の「プライベートvs仕事」のように個人の健康や幸福と、企業での成果を切り離す考え方から大きく歩みを進める考え方で、むしろ社員の幸福を大切にすることこそが、企業の業績を向上させるという概念が根底にあります。
紙面に限りがあるので、かいつまんで幸福研究を紹介したいと思います。
〈代表的な幸福研究〉
幸福が健康や長寿と関係あることはなんとなく想像出来ますが、それを裏付けた研究があります。
・先進国に住む人で調査したところ「しあわせを感じている人」は「そうでない人」に比べて7.5~10年寿命が長い。
・修道院僧180人の調査:入所したときに自分が幸せと感じていた尼僧の平均寿命は94歳。あまり幸せでないと感じていた尼僧の平均寿命は87歳。7年の差がある。
Bruno S. Frey (University of Zurich), happy pepple Live longer, 2011/2 Science 331, 542-3
〈産業保健とも関連のある幸福研究〉
幸福な人の方が生産性が高いということを示す研究もあります。
幸福な人の方が 創造性は3倍 ・ 生産性は31% ・ 売り上げは37%高い
Lyubomirsky, King and Ed Diener, The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success, Psychological Bulletin, 2005, Vol. 131, No. 6, pp. 803–855
幸福な従業員の方が欠勤率が低く(George1989)
離職率が低い(Donovan2000)
〈産業保健との関わり〉
健康経営も経営と社員がwinwinを目指すという方向性は同じですが、さらに深めているのが幸福経営ではないかな、と個人的に感じています。
産業医として健康経営の活動に参加を求められることも増えてきていると思いますが、もう一歩先をいく「幸福経営」を頭の中に置いていると、より深みのある提案ができるのはと思います。
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(令和元年10月掲載)